君主論　　　　　　　マキアヴェリ　　　　　中央公論新社　

「マキアヴェリスト」は、かならずしも褒め言葉ではない。いやむしろ、「狡猾なプラグマティスト」とか「権謀術策家」と言った意味の非難の意味を含んでいるといってよいだろう。

それは、いまから500年前の欧州の戦国時代ともいえる群雄割拠するルネッサンス期イタリアの思想家、マキアヴェリが著した、君主はいかにあるべきかを説いたこの「君主論」に述べられている数々の警句、例えば｢恩恵をよりよく味わってもらうように、小出しにやらなくてはならない｣とか「決断力のない君主は多くの場合中立の道を選ぶ」等々が、いまでもリーダーや政治家に求められるいわゆる「道徳的」「理想的」なものの正反対を示しているからかもしれない。

マキアヴェリが生きた時代は、イタリアは小国に分かれ、そこに教会の権力やフランス、スペイン、スイスなどの外国勢力までもが食指を動かしてくるという激動の時代だった。

そんな中で、マキアヴェリは自らの君主に対してこの生き馬の目を抜くような時代に生き残り勝利して市民の幸せを実現する方策を必死に指南しようと本書を著したという事情を知れば、この「君主論」を政治論、あるいは思想論の名著として再評価することができるだろう。

圧倒的な軍事力を備えている訳ではないイタリアの各小国にとって国を守り、市民を守るということは、至難の業であり、綿密に練られた政治的な振る舞いの成否こそが最強の武器であったという事情があるのだ。

あらためて「君主論」を読んでみると、今の日本、いや世界各国の政治家にとってこのマキアヴェリの「君主論」の説くところは、そのまま応用できそうだとすら思う。

少なくとも日本の政治指導者たちには、もう一度読み返して欲しいと思う。