官僚批判の論理と心理　　　　　野口雅弘　　　　　中公新書

アメリカの共和党や、ティーパーティー運動などが主張する「小さな政府」論は、行政機構（役人）の数も少なくする変わりに、福祉や社会保障などの行政の役割も、自分達市民が極力引き受けようというものだが、日本では、相も変らぬ「官僚批判」（役人の権限を減らせ、役人を減らせ、役人の給料を減らせといった）の一方で「福祉や社会保障をもっと充実せよ！」といういわゆる「大きな政府」志向という矛盾するものがある。

本書冒頭にある以上の問題提起には大いに興味を引かれて読み進めていくと、本書はその日本的官僚批判の土壌分析の手段として突然、西洋政治思想史へと論が飛んでしまう。

日本の官僚制とその官僚批判の分析としてマックスウェーバーの官僚論、あるいはトクヴィルの官僚論へと遡っていくことには興味を引かれたが、結論は日本の官僚制とその批判分析に戻ってこないままで終わってしまう。

本書は結論として、マックスウェーバーの官僚制は新自由主義への防波堤でありデモクラシーを守るための公共性を持つという理論に至るのだが、口上に釣られて小屋に入ってみたら、著者の得意分野である「マックスウェーバ研究」という、口上とは違う古い見世物を見せられたような気分がして、読後はかなりのフラストレーションがある。

それにしても、確かに日本の「役人たたき」は（役人はしっかりやっているという意味ではないけれど）、なんだか日本人のファッションのようなところがあるなぁ〜という気がする。

「民間の平均給与に比べ公務員の給料は―――」などという言い方がいかにも正義の声であるかのように皆が口にするのは、見方によっては単なるひがみ根性でしかないようにも響くが―――。