本当にわかる心理学　　　植木理恵　　　　　日本実業出版　　

フロイトやユングなどによって始まった深層心理学や、80年代アメリカではやった精神分析や催眠心理療法などに対して、どうも辻占いのご宣託と同じレベルの「おまじない」的な気休めのように思えて仕方がなかったし、こんなにインチキ臭いことが本当に科学といえるのかという反発に似た嫌悪感を持っていた所為で、今も今一つ心理学という学問に対する信頼感をもてないでいる。

ひょっとしたらタカさんばかりではなく日本人の多くが心理学はどうも「科学ではないのでは」と考えているような気がしないでもない。他の諸々の科学分野に比べて心理学に対する信頼が低いことはまず間違いないのではないだろうか。

本書の冒頭、著者はこういった風潮は、心理学がフロイトやユングなどによる深層心理学、すなわち抑圧や無意識といった「見えない」ものをあたかも見えているかのように取り扱う学問としてはじまったことに由来しているという。

著者は、心理学は本来、人の行動など具体的に「見える」ものを対象にすべきであり、そういう「見える」ものを対象にして心理を研究する「実験心理学」こそが科学的心理学といえるという。

本書ではその実験心理学とは何かについて、その「現象」「実験」「観察」「理論」「技法」という側面からの研究事例を挙げて解説したもので、従来我々がもっていた心理学に対する「胡散臭さ」の感覚は、かなりやわらげられる。

現代心理学に関する、中々分かり易い入門書といってよいだろう。

只、人の心理というなんともとらえどころのない摩訶不思議な物を、「科学的」に解明しようという心理学そのものの無謀さを考えると、いかに著者が「科学的」といっても、一つの数式で表すことができる宇宙法則などを探求する「科学」と、この「科学的」心理学における科学の意味は違いすぎるようにも思う。

例えば、人はなぜうつ病になるのかといった問題は、もしうつ病患者が1万人いれば、1万のいや10万もの原因が考えられるはずで、それを何か公式があるかのように考えること自身、あまりにも無謀、言い方を変えれば「胡散臭い」ような気がする。

特に、最終章近くで述べられているさまざまな心理療法については、どうも新興宗教の道場辺りでおこなわれているインチキヒーリングとの区別がつきにくいような気がしてならない。

フロイトを読んでショックを受け（そんな馬鹿な！という）て以来の心理学嫌悪感が為せる業かもしれないが、どうも自分と心理学は相性が悪いように思う。

（10年3月発行）