ペインティッド・バード　　イェジー・コシンスキ　　 松籟社　

ナチスドイツの支配下の占領下にある東欧のある国（明らかにポーランドと思われる）、迫り来るナチスの魔手からせめて息子だけでも逃れさせようと両親は6歳になる主人公を他人に託して農村へ疎開させた。

しかし、少年んは、間もなく養い手を亡くし、そして朝黒い肌の色と黒い髪（ユダヤ人かジプシーを思わせる）に対する偏見と憎悪に満ち、無知と呪術がはびこる農村で一人生きていくことを強いられる。

戦後長く、全てナチスによるといわれたホロコーストやユダヤ、ジプシーへの迫害が、実は一般市民たちも共犯あるいは主体的にそういった行為に加わっていたことが後に明らかになったが、この小説は、こういった実態を早い時期に告発した一冊である。

しかし、発表当時（1963年）から、本書にかかれた事実は、ナチス協力者、あるいは虐殺をナチスの所為だとしてきた共産勢力や、ポーランド人にとっては不都合であったし、彼等ができるだけ忘れてしまいたいと考えていたこともあって、本作品は様々なバッシングをうけている。

民族にとってこの物語は、「贋作であってほしい」「全くのでっち上げ」であって欲しいと思わせるものだからこそ、「贋作」や「盗作」のバッシングが激しく行われたという。

又、作者自身が実際に体験したことではなく、作者は実際にはこのような体験をしていないという事実も、この余りに過酷な物語は、作者が祖国を貶めるためにでっち上げた物語だという非難を生む原因ともなった。又、共産主義の立場からは反共プロパガンダに過ぎないという激しい非難も受けたし、作家自身が謎の自殺を遂げたという事実も加わって今尚、この作品に対するゴシップ的な騒動は納まってはいない。

この小説のあまりの過酷さ、残酷さは最後まで読み通すことに多大な苦痛を伴うほどのものだ。これでもかこれでもかと続く、少年が村人たちの憎悪の的となり荒野を獰猛な犬をけしかけられ、村の子供たちには石を投げられて逃げ回る様は、まともな神経ではとても読み続けられるようなものではない。

しかも、獣姦や近親相姦をはじめとする少年に加えられる異常性愛などの描写の生々しさは、この作品に対する批判者の「ポルノグラフィーでしかない」という罵倒すらもうなずかせてしまうものではある。

しかし、発表以来50年を経ても、いまだにベストセラー100の中に毎年残っているということは、この物語がフィクションとはいうものの、極めてノンフィクションに近いものだと多くの人が感じているからだと思える。

是非読むべきだと推薦するには躊躇するところもあるが、読んでおく「必要」がある一冊であることは間違いない。