力士ふたたび　　　　　　　須藤靖貴　　　　　ハルキ文庫　　

相撲雑誌編集者であったという経験を持つ作者による相撲界を舞台にした推理小説というなんともユニークな娯楽小説だ。

八百長問題で大揺れにゆれた今年の相撲界だが、そんな「特殊な世界」である相撲界とはどんな世界なのかという内幕情報が面白いし、親方株売買を巡る相撲界人間模様と殺人事件という組み合わせも面白い。

幕内に上がることなく怪我に泣かされ十両で現役生活を終えた秋剛士は、親方になることもなく今は妻の実家の瀬戸物屋を手伝っている。

その秋剛士の所属していた部屋の元親方は、親方株を借金のかたに出したことで部屋は取り潰し、親方は引退を余儀なくされ、今は女性のマンションに転がり込んでいる。

そんな元親方の元を、剛士は今は部屋付きの親方になっているこのかつての兄弟子の依頼もあって訪ねる。

今親方が週刊誌上でやっている相撲界告発キャンペーンを止めるようにと説得するためだ−−−。しかし、説得は成功せず、親方と酒を酌み交わして帰った剛士だったが、その日親方は急死、剛士自身が不可思議な親方の死と、相撲界における年寄株を巡る魑魅魍魎の中に巻き込まれていく−−−。

豪快な勝負に生きる力士たちが、結構どろどろとした相撲界の人間関係に巻き込まれていくというなんともアンバランスには意外性があるし、そうはいいながら、力士らしい、男同士の力勝負の格闘ありといった具合で、なんだかかつての日活アクション映画をみるような痛快さもある。

謎解き部分にやや無理を感じるけれどまあ、娯楽作品なのだから十分見過ごせるし、なにしろ相撲好きにとっては痛快なエンターテイメント小説になっている。