老人の歴史　　　　　パット・セイン　　　　　東洋書林　　　　　　　

近年の平均寿命の伸びは驚くべきものがあるが、誤解しがちなのは平均寿命がまだ短かった時代には、「高齢者はいなかったか、いたとしても極めて稀だった」と思いがちであることだ。

平均寿命とはゼロ歳児の平均余命のことであり昔「平均寿命が短かった」主たる原因は、乳幼児死亡率が高かったからに過ぎないのだ。

乳幼児期を生き延びれば人々は昔も、老年期まで生きることは決して珍しいことではなかった。中世においても65歳以上の高齢者は常に人口の8％から10％を占めていたという。

本書はギリシャ、ローマ時代から現代までの2千年間、西欧社会において老人がどのように見られ、扱われてきたか、老人自身が自らの老いをどのように捉えてきたか年代を追って論じたもので、老人をテーマにした古今の彫刻、絵画などの多くの図版をまじえての老人考はユニークであり興味深い。

老人が時代によっては尊敬されるべき存在であったり、又逆に忌み嫌われる存在であったりするのは、その時々の文化、社会の仕組み、宗教、哲学、道徳に因っているという事実にあらためて現代の老人という存在を照らし合わせつつ考え込まされる。

本書の老人考は、西洋文化圏のみを対象としたものだが、できれば東洋、すくなくとも日本では歴史的に老人が社会的にどのように扱われてきたかといった老人考を是非読んでみたいと思った。