未曾有と想定外　　　　　畑村洋太郎　　　　　　講談社　　　

3.11の震災と津波、そしてこれによって起こった福島原発の事故、いずれも著者の提唱した「失敗学」の見地からみれば実に数多くの研究材料を提供したといえる。

事故や失敗にはかならずそこに至る原因がある。起きてしまった後で、「ああ、あの時こうしておけば、こういった対策をとっておけば」といった反省点はいくらでも指摘できるが、そういった失敗から何も学ばないことが、再び同じ失敗を繰り返す原因になっている。

「反省だけなら猿でもできる」などというが、残念ながら人類は直後に反省しても直ぐにその反省を忘れてしまうし、もっと酷いのは今回のように「未曾有」だとか「想定外」といった言葉によって「仕方がなかった」と反省すらしないということさえある。失敗から学ぶということがなぜ行われてこなかったのだろうか。

「失敗から学ぼうとしない」「直ぐに反省すべきことを忘れてしまう」という人の習性が、次の災害や事故を招き大きな損害を出してしまうのだ。

こういった「失敗学」の観点からの著者の物言いは、実際に被害にあった人の中には死者に鞭うつように響くかもしれないが、そういった批判は著者も重々分かってはいるけれど、言わざるを得ないというところなのだろう。

例えば、自警団から「津波が来るので直ぐに逃げろ」と警告されたにもかかわらず従わず自宅に留まったために亡くなった中高年が多かったという。彼等の多くは過去に防潮堤が津波を食い止めた経験や、空振りに終わった津波警報といった過去のオオカミ少年的な情報の記憶が「今回もたいしたことにはならないだろう」といった思い込みを生んでしまい、(素直に指示に従って避難した子供たちに比べると)致命的な判断ミスを犯させてしまったという面があったという。この例などは、過去の津波の記録が正しく語り継がれていなかったという「失敗」から起きているのだが、今回の震災被害も時とともに忘れ去られてしまう可能性は高い。

小学生たちが日頃からの訓練の成果もあってほとんど全員が避難して助かっているといった事実からも、我々は過去の失敗から学び、日頃からの注意を怠らないことが大切なのだ。

もっとも、あの津波の際に、勝手な判断をせずまず安全な場所に逃げるべきだったという主張は確かに正論だが、死者の遺族にとっては過酷な言葉であろうとは思う。

自然災害は基本的には人力では防ぎようがない。最善の防災は災害が起きたら｢逃げる｣ことである―――といった「失敗学的反省」が数多く載っている。是非とも、こういった教訓を忘れないようにしたいものだ。