相対性理論から100年でわかったこと　   　佐藤勝彦　　　　PHP　

インフレーション理論の提唱者である著者は日本を代表する物理学者の一人であり、その一般向け宇宙物理学の解説書はその分かり易さで人気だが、本書もそんな一冊である。

本書で取り上げるのは相対性理論と量子論という現代物理学を支える二つの理論であり、その周辺、そしてその先に見える最先端科学である。

物事を理解している人の解説は分かり易い（分かっていない人の解説は、当然、だれにも理解できない）というが、今まで読んできた多くの宇宙物理学関連の書物のエッセンスを文庫一冊にコンパクトに納め、読者に俯瞰的な知識を伝えてくれる本書は宇宙論好きにとってはまたとない一冊といえよう。

宇宙論好きにとっては多くの部分が「おさらい」になるが、その分、目新しい理論などが解説されているという訳ではない。

ただ、検証がほとんど絶望的とも思われるひも理論やM理論、ブレーン宇宙仮説などにまで言及しながらも、率直にそういった仮説のご都合主義的な危うさや、検証不能という行き詰まりから「人間理論」という宗教的、オカルト的な理論への逃避をはかろうとしている先端科学者たちへのやんわりとした批判など、著者のあくまでも真理を求めつづける科学者としての信念がみえる部分には他書にはない、著者らしい科学への信念が伺えて大いに満足の一冊であった。