西洋音楽論　　　　　森本恭正　　　　　　光文社文庫　　

世界的なクラシック音楽コンクールでの日本人の入賞のニュースは多いし、ヨーロッパの有名交響楽団には日本人を含む多くの東洋人団員が活躍、もはや東洋人なしでは現代西洋音楽は成り立たないかに見える。

しかし、このような現象は、大相撲を外国人力士が席巻してしまったことで多くの日本人が、大相撲が持つ本来の様式美が損なわれつつあるように感じているように、西洋人は違和感を持っていないだろうかというのが現代音楽家である著者が本書を書いた動機であるようだ。

確かに、いかに器用に役をこなしたところで金髪で青い目の欧米人がかつらを被って演じる歌舞伎に我々が違和感を抱くであろうことを想像すれば、日本人が欧米において西洋音楽の賞を獲得することに西洋人が感じるであろう違和感の想像はつく。

音楽とはその音楽を生んだ地域、民族、そして文化と不可分なものであるとすれば、貴族文化から生まれ、育まれたクラシック音楽は、今や、西洋においてさえも本来あるべき姿ではなくなっているのかもしれない。

著者は、西洋音楽が本来もっているアフタービート、撓みといったものが、日本文化にはないものであること、あるいは音楽の捉え方が日本人と欧米人では右脳と、左脳の違いにあるのではないかといった点などを掲げて実に興味深く論じている。

五線譜に書き写され演奏される日本の民謡、あるいは沖縄の島歌は本来の民謡や島歌とは別物になっている。その逆のことが言えるのだという著者の多岐にわたる西洋音楽論は、そのような問題意識を全く持たずに西洋音楽を聴いてきた読者にとって鮮烈な目覚ましパンチとなるのではないだろうか。