最底辺のポートフォリオ　　　　J・モーダック他　　　　みすず書房　

一人当たりの収入が一日2ドル以下という「貧困者」の定義にあてはまる人口が25億人、すなわち世界人口の2/5を占めているという。

実は、これら貧困者は、活発に金融取引を行っているという著者たちによるフィールドサーベイ結果にはまず驚かされた。

バングラディシュ、インド、南アフリカという三大貧困地帯におけるこういった貧困者たちの経済、金融活動の詳細な調査結果に基づいて書かれた本書は、「一日の収入2ドル以下」などという生活そのものを想像することすらできなくなっている我々日本人にとっては、今まで気付かなかった世界に実は、こんなにも人間的で活発な経済活動があったことを知らせてくれる。ある日顕微鏡を覗いてみたら、実はいままで気付かなかったところに実は豊かな生命の営みがあったことに気付き衝撃を受けるのと同じようなものだろうか。

バングラディシュのグラミン銀行ではじまり世界的にも有名になったマイクロファイナンス、マイクロクレジットばかりではなく、よりインフォーマルな数人による「貯蓄クラブ」をはじめとする貯蓄と金融のシステムが貧困者の間では網の目のように張り巡らされているという事実も、著者たちの地道なフィールドサーベイなくして知りえなかった世界だろう。

あるいは手持ち資金を置いたままで借金をして物品購入する人たちの実態等々、最底辺の貧困者たちの実は逞しくそして合理性に富む（我々からみると一見不合理に見える）金融活動の多彩さには驚かされるばかりだ。

「一日2ドル以下」という貧困者の定義ですら実は、一日2ドルが確実に入ってくるわけではないという彼らの暮らしを正確にはあらわしていない。（まさに「平均」の誤謬だ）

そんな彼等にとっての金融の必要性はまず「収入が安定していない」という条件の中で、どのように日々の生計を立てていくか、病気などの不意の出費にどうそなえるか、纏まった資金をどのように貯えるかという3点を成し遂げる為のツールとしてのものである。

厳しい環境の中でこの3点をどうにか達成するために彼等が編み出した金融の仕組みこそ、デリバティブなどの金融工学をささえる理論、行動よりもより精緻な極めて人間的「経済」活動だという気がする。