日本を捨てた男たち　　　　　水谷竹秀　　　　　　集英社　

｢恋するトマト｣という映画があった。農家の長男である主人公が、ジャパゆきさんのフィリッピン女性と婚約、彼女の両親に挨拶のためフィリッピンに行き結納金を渡すが一晩明けたら彼女の一家は消え去っていて結婚詐欺にあったことを知る。

故郷で盛大に送り出してくれた両親や友人たちに顔向けもできず、文無し状態になった主人公はフィリッピンで放浪生活を始めるのだが、フィリッピンの人たちの温かさに触れて−−−といったストーリーだったが−−−−。

本書を読んで、フィリッピンに渡った事情には多少の違いはあるものの、あの「恋するトマト」のような困窮状態になって浮浪者生活をしている日本の男たちが数多くいるという事実を知って驚いた。

海外でこのような文無し状況に陥った在留邦人を外務省では「困窮邦人」と呼んでいるが在外公館に駆け込んで援助を求めた困窮邦人の約半数はフィリッピンであるという。ある意味ではフィリッピンが困窮者たちにとって居心地のよい国であるということなのかもしれない。

「困った人を助けるのは当たり前」というフィリッピン社会の温かさに安住し、日本に帰る位ならばフィリッピンでのホームレス状態の方がまだマシだと考える日本人が数多くいるということには、貧困などによって孤立してしまう人たちが社会から疎外されてしまいがちな日本社会の人間関係の過酷さが、フィリッピンの困窮邦人にとっては日本への帰国を躊躇わせる一因になっているようにも思えるのだが。

もっとも、こういった困窮邦人たちには、「自己責任」という言葉からすればほとんど同情の余地がないという事も本書を読むとあらためて感じる。著者の視点も、同情的ではありながら、困窮者たちの「どうしようもないダメさ加減」に嫌気がさしているようなところも感じられる。

様々な人たちに迷惑をかけた挙句、そういう人たちを裏切り、借金などから逃れるためにフィリッピンに逃亡、現地でも人の信頼を裏切るようなことばかりしている−−−などという人も多い。

そういう彼等を大使館も国民の税金を使ってまで援助する訳にもいかない−−−といった事情を考えると困窮邦人という言葉自身に違和感をもたないではないが。

そういう意味では本書が彼等のことを「日本を捨てた男たち」という言い方をしているのは、確かにより相応しい言葉だという気がしないではない。