熊出没注意　　　　　南木佳士　　　　　　　幻戯書房　　　　

自選短編小説集というサブタイトルがついており作家自選の10作の短編が収められており、又巻末に作家自身による各短編の解題を含むあとがきがある。

南木佳士は医師として活躍の傍ら創作を続けてきた芥川賞作家で、デビュー30年になるという。

デビュー30年、芥川賞作家という割にはなぜか彼の作品を読んだのは今回が初めてだが、10篇何れも、極めて日本的（？）な私小説的短編でありそういう意味ではあまり、自分の好みの作風ではなかったということも今まで読んだことが無かった理由かもしれない。

冒頭の一編「重い陽光」は、カンボジア難民キャンプという過酷な戦場のような地で医療活動に携わる作家自身とも思える医師の視点から描かれた作品だが、開高健のベトナム戦記物的な雰囲気をもつ物のその陰鬱でいて破滅的な筆致は、正直言ってなぜか開高健の作品のような臨場感をかんじさせるものではなく、なんだか作り物っぽい。又、主人公に対する共感を呼ぶものではないし、「文学作品」というには、詩情もないなんとも乾ききったものであってどうも感心しない。

作家自身、パニック症候群などを病んで苦しんだというこれまた日本の私小説作家達と同じようなバックからこのような重々しく暗い作風になるのかと思うし、こういう作風を「芥川賞」選者たちが好む（？）ということもあったのではないかとは思ったが。（だから、最近の「純文学系」は、ダメだといわれるのかもしれない）

巻末に収められた表題作「熊出没注意」も、主人公が訪ねた山中の旅館にあった「死んだふりをしても助からない―――団子虫のように丸くなり、できるだけダメージの少ない体勢で、熊が攻撃をやめ、立ち去るまで耐え抜くしかない」という熊出没の際の注意書とうつ状態にある主人公の気持ちを重ね合わせるというところが主題なのだが―――確かに芥川賞的作品とは言えるしこういった作風を好む読者も一部にはいるのだろうとは思うが、嘗て興隆を誇った日本的な私小説（太宰等のような）には今や遠く及ばないように思うし、これが今の芥川賞低迷の原因かなぁ〜という気がしないではない。