解錠師　　　　　スティーヴン･ハミルトン　　　　　早川書房　

アメリカのペンギンブックスに似たサイズ、そして黄みがかったページといった装丁のハヤカワブックスを一時期は随分と読んでいたものだが（ハヤカワミステリシリーズやSFシリーズなどが特に面白かった）、最近は余り手に取ることもなくなっていた。

そんな訳で、書評などで評判の本書を手に取った時に随分と懐かしい気がした。

評判通り、エンターテイメント性のある、いかにもハヤカワミステリシリーズらしい一作で、作品数は多いものの相変わらずストーリー性やアクション性ではどうしてもこぢんまりとしがちな日本のミステリー小説に比べ、アメリカのミステリー小説は今も健在だなぁ〜と思った。(アメリカの作品は余りにエンターテイメント性に重きを置いたために作品としての「深み」となると相変わらず乏しいところは変わらないが）

幼い頃に、凄惨な事件に巻きこまれたショックで、言葉を失った主人公マイクは、どんな鍵でも開けるという特殊な才能を持っていることに気付く。

両親を失い伯父の下で暮らすマイクは、高校生の時にその才能故にある犯罪に巻き込まれたことで、犯罪社会に巻き込まれていく。

どんな鍵でも開けることができて、どんなことがあってもしゃべらないというマイクは犯罪集団の中では実に重宝な存在となっていくのだ−−−。

そんなマイクが恋する女性を守り、そして自分自身も犯罪まみれの生活から抜け出す為に過ごす日々がマイクの一人称で綴られる。

彼を破滅の沼に引き入れようとする犯罪者たちからの恐怖の重圧の中で、マイクが「しゃべれない」というハンディを背負っていることが、手足を縛られて泥沼に静められるような感覚を読者にも与える。こういった設定そのものがミステリー、スリラーとしては中々秀逸だ。

ネタバレになるのでこれ以上のストーリーは省くが、アメリカの小説らしく最後は勧善懲悪、愛が勝つ、といった予定調和に近づくところが今一つ物足りないような気がしないではないが、どんでん返しとはいわないまでも、犯罪者である主人公が無罪放免となるのか、ならないのか、と思いつつ最後まで一気に読ませるところはさすがアメリカでもこの作品が好評を得ているだけのことはあると思えた。

巧妙に仕組まれた犯罪が上手くいくことを読者が望んでしまうといった犯罪者が主人公となった映画や小説は多いがこの作品もそういったスリリングなところがふんだんにあるし、作家ハミルトン自身もプロの解錠師ではないかとすら思えるほどの解錠テクニックの詳細が描かれており、こういった部分だけでもミステリー作品として秀逸だ。

(11年12月発行)