快感回路　　　　D・J・リンデン　　　　　河出書房新社　

もっとも原始的な線虫にも快感のニューロンがあるという。

このニューロンを刺激しつづけると線虫は生存の為に必要な食事すら忘れて快感にふけるのだとか。

本来、生存や種の保存といった生命にとって不可欠な行動に対する報酬として与えられていると思われていた快感は、かならずしもそうではなく、脳の快感回路によって支配されているのだという著者の脳科学者としての指摘は、ある意味ではショッキングなものだ。

セックスや美食、飲酒やドラッグ、ギャンブルなどいわゆる悪徳といわれるものから得られる快楽と、寄付行為、他人に対する親切などの美徳から得られる快楽の回路は、全く同じ脳の働きだという話もショッキングであった。

しかし一方、著者は、「人間は本能から離れた全く任意の目標の達成（善行などの美徳）に向けてその快感回路を変化させ、その快感によって自らを動機づけることができる」ことも明らかにしている。

すなわち人間は自らの意思で脳に新たな快感回路を作ることができるとも言っている。

人間にとって快感とは何なのかを脳の構造と、第二の本能ともいえる「習慣」の二つの面から迫る一冊だ。