傍聞き　　　　　　　　長岡弘樹　　　　　　　　双葉社　　

日本推理作家協会賞短編部門を受賞した表題作「傍聞き」を含む4篇の短編ミステリーが収められている。

4篇何れもその意外性のあるトリックは、確かに小洒落たところがあり、受賞作ということもあって売行きは好調なのだとか。

相手から直接聞いてもとても信じられないような話でも、同じ話を相手が第三者にしているのを漏れ聞いたとすると案外、この話を信じてしまうことがあるという。これを「漏れ聞き効果」あるいは「傍（かたえ）聞き」というのだそうだ。

表題作は、この漏れ聞き効果をトリックに使った二つの事件（？）が同時進行で進むというストーリーだ。

同僚刑事であった夫を亡くした主人公の女性刑事は、事件に明け暮れる母に淋しさを感じている多感な小学6年生の娘との二人暮らしだ。

ある日、ストーカー事件の前科を持つ男が、窃盗の疑いで逮捕され、主人公に面会したいと言ってくる。

娘に対しての「お礼参り」の恐れを抱いた主人公だったが、その男の面会要求に応じることにした。しかし、面会時間が始まっても男は一言も発しない―――主人公の感じる言いようのない不安感がいやがうえにも増してきて−−−と中々、スリルに富んだ展開だ−−−。

そして物語は、どんでん返しともいえる意外な展開を見せるのだが−−−。

松本清張の短編などのもつ社会性のあるミステリーが少なくなった中で、著者のミステリーには適度な社会性が感じられて中々面白いとはおもうが、それでも欲をいえば、トリックにいささか無理も感じられ、清張の短編に比べると社会性もなんとなくウソっぽいのは気になるところ。この作家、未完成という感じだ。

松本清張が偉大であったかということをあらためて感じた。