自虐蒲団　　　　　　　小池昌代　　　　　　本阿弥書店　

自らの情念を言葉に表し、あるいは人に伝えるのは実に難しい。

しかし、それを表そうとすればやはり言葉を使う以外に方法はない。詩人でもある著者は、そういったイライラ、もどかしさの中で常に苦しんでいるのだろうか。

本書には言葉と深いかかわりを持つ人たちを主人公にした13の短編が納められているが、著者自身とも思える女性詩人をはじめ、新刊小説のあらすじ書きで糊口をしのぐ売れない作家、腹話術師、職場のエリート女子社員たちからのいじめに耐えているコピーライター、少女俳人等々、皆、みずからの思いを託す言葉が見つからないフラストレーションの中にいるように思える。

いくつかの短編に出てくる「文字毒」というのはこの言葉と情念の埋めることのできない溝のことではないかともとれる。

「漕ぎ出した男」の中では、主人公が海の中から海上に浮かぶ葉っぱを見上げて「その厚みこそが言葉の意味だ―――海の底とは、言葉の底であり文化の底であり心の底―――」とつぶやく場面があるが、その瞬間こそが主人公が文字毒から逃れられた一瞬なのだろうか。

詩人らしい感性に溢れた作品は、いささか難解ではあるが心地よいものだ。