決断できない日本　　　　ケビン・メア　　　　文芸春秋　

「沖縄はごまかしとゆすりの名人」と発言したと報道され、国務省日本部長を更迭されたケビン・メア氏は、夫人は日本人、日本駐在経験は19年にも及ぶという国務省きっての日本通だ。

本書はあの発言報道後、私人として報道に抗議する覚悟を固めたメア氏が翌日に起きた3.11の大震災における米国の救援活動の中心となって欲しいとの国務省からの要請を受けて辞職を思いとどまりトモダチ作戦で活躍した経緯から説き起こし、彼の長い日本との関係において日本の政治がいかに劣化してきたか、あるいは官庁がいかに官僚主義に蝕まれているかを感じた実例を挙げて語る「日米関係の真実」は日本のマスコミがタブー視して避けてきたものだ。

本書の中でメア氏は、あの｢沖縄はゆすりの名人｣発言が、実はワシントンにいる反基地運動の日本人女性弁護士と共同通信記者による全くのでっち上げであることをはじめ、沖縄問題の今日の混迷が、基地問題を政治問題化することによってみずからの政治的立場を守ろうとする人たちによってゆがめられていると主張する。

本書を読むとあの発言では一方的に非難されたメア氏だが、実は日米同盟関係深化に取り組む剛直な日本贔屓のアメリカ人が、実はゆがんだ日本政治の被害者なのかもしれないとすら思わせるものだ。

本書のメア氏の主張に対する反論があるならば、彼の人格などに対する個人攻撃ではなく、正々堂々の論陣を張って欲しいとは思うが、今までのところ、かの女性弁護士や、共同通信記者からのその種の反論は聞いていない。何故なのだろうか。

普天間基地に近い小学校の移転にもっとも反対したのは反基地を掲げる市長であったという話には驚かされた。

市長は自らの政治目的の為には自らは「基地のそばに小学校があるのは危険」と主張しながら小学校の移転には反対する、すなわち小学生たちを人質として自らの政治主張の背景作りをしようとしているというのだから。

土地価格が下がる一方の沖縄で、米軍基地用地としての莫大な地代収入で潤っている土地の価格は値上がりする一方だというメア氏の指摘は、沖縄では基地反対の声一色であるかのように報道するマスコミはなぜ取り上げないのだろうか。「沖縄の負担軽減」という言葉が、実際は「沖縄に対する金の支払い」でしかないのではないかという指摘は、日本人として残念ではあるがある意味うなずかざるを得ないところもある。

この一件を含め、「沖縄問題はあれこれ言うと反発を受けるから」と見てみないフリをする多くの日本人、そしてその政治利用しか考えない政治家たちに対し、日本を愛し、日米の同盟関係の重要さを知るメア氏の直言は、よほど耳に痛いということなのだろうか。

メア氏が、あのような事件にもめげず、これからも日米友好の為に活躍してくれることを切に願うばかりだ。