魔法飛行　　　　　　川上未映子　　　   　　中公新社　　

武田百合子や森茉莉といった女性随筆家のエッセー、特に自分の身の回りで起きるいわゆる雑事や、頭に浮かんだよしなし事、思いつくままの想念を文章にしたエッセーは、中々男性には書けない（書こうとしない）独特のものがあり、読んでいて「どうでもいいことじゃないか」等と思いつつも、ついつい釣り込まれてしまう深さ、面白さを感じることがある。

女性という種族は、こんなことを考えて生きているのかぁ〜と何だか珍しいものを見たような気がするからかもしれない。

今や、作家として大家の部類に属する（？）著者が、ネットで連載したエッセーが中心の本書は、女性特有のエッセーの特徴に、更に「ネット」上のというよりは、ブログ的な気軽さが加わった、語り口、内容であり、新しい形のエッセーということなのかもしれない。

著者の小説にあるシュールさとか、重さ、といったものはこれらのエッセーにはほとんど感じられず、中年（？）女性のひとり言を傍らで聞いているような気分になる。

もっとも、それぞれの文章にはそれなりに共感とか感銘を受けるものの、題材がいわゆる日常雑事、身辺雑事であるだけに読み終わっても印象深い記憶として残るものは少ないとはいえるが−−−。それは決して、けなし言葉ではない。武田百合子や森茉莉同様に、読んでいる時に感じる心地好さは本書の著者も同じだ。

タイトルには「砂漠、名古屋、銀河、いかが」とか｢産毛に輝く植木鉢など｣と言った具合に著者らしい得体の知れないシュールさが合うものが多く、一編が長くても4ページ程度の短文からなる一冊は、中々ユニークだ。