フェルメール　静けさの謎を解く　　　　藤田令伊　　 　集英社新書　

今や日本人が好きな西洋絵画といえば、フェルメールはその上位にくることは間違いないだろう。

1600年代中ごろに活躍したこのオランダの画家が、その生涯に残した作品は決して多くはない。

未だに真贋論争が続く作品を含めたとしても現存する作品は、40作品に満たないといわれているが、2000年頃から日本では頻繁にフェルメール展が開かれ、一回の展覧会では精々、4、5点のフェルメール作品を見られるに過ぎないが、連日の盛況だし、中にはフェルメールの作品を見るためにオランダを訪れるツアーまで企画されている。

タカさんもそんなフェルメールファンの一人だが、この十数年でフェルメールの作品の過半は見ているし、やはりあの「牛乳を注ぐ女」「真珠の首飾りの女」「青衣の女」といった代表作の静謐さと、気品のある青には震えるような感激を味わったものだ。

本書の著者もフェルメールファンの一人。30年余りにわたってフェルメールを見続け、その妖しいまでの魅力はどこからくるのかを考えてきたという。

本書は、フェルメールの代表作がもつ「静謐さ」について、まさにフェルメールフリークらしい考察を行ったものでファンにとっては実に興味深い、納得いく考察ではあるが、オタクではない人にとっては「何をそんな細かいことを！」となるかもしれない。

著者はまず、フェルメール作品からはなぜ、他のオランダ風俗画家の作品と違って「静さ」を感じられるかの考察を行う。

初期の作品にはあった写実的でディテールを書き込む手法が、徐々に写実からは離れフェルメール自身が「書きたいもの」を画くようになっていったこと、あるいは静さを感じさせるためには、「青」すなわち“フェルメール・ブルー”の役割を詳細に説く。

又、著者の考察は、フェルメール・ブルーの画材であるこの超高価なラピスラズリを決して豊かではなかった彼がいかにして入手できたのかといったフェルメールという画家の個人像にまで及ぶ。

芸術作品鑑賞の方法としては邪道かもしれないが、本書に書かれたような「鑑賞の手引」のようなものを知って再びフェルメールの作品を見れば今まで以上に作品が楽しめるような気がする。

次にフェルメールが来るのはいつだろうか。それとも見に出かけるとするか。