｢見る｣とはどういうことか　　　　藤田一郎　　　　化学同人　　　

「見る」という行為を脳科学的に解いた興味深い一冊だ。

脳に損傷があると網膜には異常がなくても「見えない」という状態が起こりうる。

そもそも、人が網膜に結んでいる映像は極めて不鮮明なものであるにも係わらず、人の脳はその像を修正、補強することで「鮮明な映像」を見ているという錯覚を起こしうるという。

かつて茂木健一郎などが言っていたクオリア（自分の見ている赤と、他人の見ている赤とは果たして同じものだろうか）の問題や、あるいは数々の錯視現象、といった視覚と脳の関係についての言及、あるいは図版は現在進行形の脳科学、視覚研究の最先端を伝えておりわくわくさせるものがある。

前半では視覚についての科学的洞察が語られるが、後半では前半で言及したところを前提にして、どちらかというと「見る」あるいは「意識」といった行為は、そもそも何なのかという哲学的とも言える命題へと展開していく。

「存在しているから見えるのか」それとも「見えるから存在しているのか」というギリシャ哲学以来の命題は現代科学でも続いているということなのではないだろうか。