アライバル　　　　ショーン・タン　　　　　河出書房新社　

全編がセピア色の絵のみで書かれた物語というなんとも異色で不思議な一冊だ。

著者はその名前からも分かるように、父親がマレーシアからの移民だというオーストラリア人。

ある国情不安な貧しい国から新天地を求めて移民する男とその家族の物語である。

1ページ、時には見開き2ページ一杯に、あるいは1ページに12こまの絵で描かれた主人公たちの故国、そして新天地は、シュールなものでありそれはそれぞれの国における政情不安、移民たちの不安や喜び、あるいは家族の愛を象徴している。

これらの絵物語のストーリー展開を読んでいると（見ていると）、絵というものは、言葉ではとても表現できないものを瞬時に表現し、人に伝える力があるということに気付き感銘すら受ける。

住み慣れた土地の貧困や迫害を逃れようと、先ずは単身で新天地に向かう若い夫、その男を見送る妻と幼い娘との別れ、言葉も通じない新天地でとまどいながらも必死にその地での生活基盤作りに励む男の日々とその心情、そして遂に家族を迎え貧しいながらも新しい国で楽しげに食卓を囲む一家。

最後の場面では、この家の幼い娘が、新しい移民と思われる若い女に道を案内する場面で終わる。人間愛だとか、希望だとかといった言葉ではとても表現しきれない物が、この最後の場面では饒舌以上に饒舌に描かれている。

決して何かを批判する意図で書かれた訳の物語ではなく、いまも世界に多くいる移民、あるいは新天地に移住する人たちの心に寄り添った物語は、結果論かもしれないが、文章で書くより絵物語で書かれるべき物だとあらためて思った。