達成の人　　　　　　植松三十里　　　　　　中央公論新社　　

子供のころ、どこの小学校の校庭にも二宮金次郎の像があったようにも記憶するが、｢子供に労働させるとは！｣とか「ケイタイしながら歩くのを禁じているのに、歩きながら本を読む金次郎像は教育上よくない」（？）などの意見に押されて最近は小学校に金次郎像があるところは珍しくなったのだとか。

貧しい農家に生まれ早くに両親を亡くすなどの数々の逆境の中で、不屈の精神で働き学び、一生の内に600を越える村々を復興させたという正に偉人中の偉人といわれた金次郎が、今や「時代に合わない」とばかりに忘れ去られようとしているのはなぜなのだろうかと不思議でならない。

この植松三十里による二宮金次郎伝は、かつて子供の頃に読んだ「日本の偉人伝」の中にあった金次郎伝の書き方であり、自分の年代の人間にとっては、金次郎の努力、努力の人生には再び感激を覚えるものの、苦労だとか、我慢（いや、それどころか貧しさでさえ）を知らない現代の若い世代、あるいは子供たちには果たして共感や感動を呼ぶのだろうかと思わないではない。

最近は、二宮金次郎（後の二宮尊徳）の業績としては、その町村復興、財政再建の手腕がとりあげられることが多く、子供時代に薪を担いで歩きながら本を読んだとか、自ら菜種を育てその実を絞って灯りをともして勉強した、といった子供時代の金次郎勤勉譚に触れられることは少ないようにも思うが、本書では寧ろかつて我々が教わったと同じ金次郎の少年期、青年期の話を中心に書かれており随分と懐かしい気がした。

嵩んだ借金の返済も、国の財政再建も、基本は「節約と貯蓄」でありそれを達成するためには「勤勉と努力」である、という金次郎の思想が、今や日本では全く忘れられていることにやはり今の日本の全ての問題が集約されているようにも思う。