時間の正体　　　　　郡司ペギオ-幸夫　　　　　　講談社　　　　

等速度で動いている物同士では「速度」を感じることはできない。

速度は異なった速度で移動する物同士で感じることができるものなのだ。外が見えない高速エレベータの乗客はその速度を感じないのはこの理由による。（相対論を持ち出すまでもないが）

では、背景もなく全体として等速で動く（進む）時間を、我々は感じることができるのだろうか。時間の経過を知覚しているというならば、時間の経過（速度）を感じるための「背景」は、何なのだろうか。そんな議論の中から「時間は存在しない｣という理論も導き得る―――。

量子論を突き詰めれば、それは必ずしも「因果律」が成り立たない世界ということだ。因果律が成り立たない（たとえば重ね合わせの状態）とすれば、アインシュタインのいう「時空」の概念も成り立たない世界があるということにもなる―――。

本書は、「時間」について哲学と科学（特に量子論）の両面から迫ろうという労作で、その時間論は、量子論の他にも、生命科学や脳科学的に時間を考察し、哲学的には主に、マクダカート、マルコポーロ等の時間規定論に及び、その時間論の言及は縦横無尽である。

読み終わって、「さて時間は本当に存在するのか」と再び考え込んでしまった。

実際に時間は実在するとしたら、脳はそれをどのようにして知覚しているのか。

もし、実在しないとしたら、脳はどのような論理を作ってその幻影（イリュージョン)を見ているのだろうか―――。本書を再読する必要がありそうだ。

時間論は本当に面白い。