複雑で単純な世界　　　ニール・ジョンソン　　　インターシフト　　

渡り鳥の群れが棹になり鉤になりして飛ぶルールはまさに本書のタイトルでいう「複雑で単純」そのものだ。

この群れにはリーダーはいない。しかもコンピューターでプログラムされた詳細な編隊飛行プログラムがある訳でもないのに、彼等はお互いがぶつかることもなく、融通無碍にその形を変えながら高速で飛んでいる。

そんな実に複雑に見える編隊飛行も実は、｢隣に飛ぶ鳥と何十センチ以上は近づかない｣という極めてシンプルな規則を、鳥同士が守ることによって可能になっているのだ。これこそが「複雑系」という訳だ。

自然界はニュートン力学のような予測可能な規則性よりも、一見予測不能な「複雑系」によって成り立っている場合が多い。

本書の著者はサイエンスライターだが、そんな魅惑に満ちた「複雑系」を数式などは一切使わず、身近な例をあげて解説してくれる。

「金融市場」「渋滞・情報」「理想のパートナーとの出会い」「戦争やテロ」「感染症・癌」「自然と量子ゲーム」といった例をあげての複雑系の知識のおさらいにとどまらず、複雑系研究の最新の話題であるも「群集-反群集」「予測可能ポケット」などの紹介も興味深い。

著者は「複雑性科学の究極の目標は、こうした創発現象を理解し、その制御と予測を行うこと」だという。そんなことが本当にできるとしたら−−−。

複雑系についてもっと詳しく知りたくなってきた。