食の終焉　　　　　ポール・ロバーツ　　　ダイヤモンド社　　　　　　

パールパックの「大地」には蝗害と戦う中国農民の場面がある。空を覆うほどに異常発生したイナゴが襲来、あらゆる作物を食べつくし飛び去っていく信じられない情景が大迫力で描かれていた。最終的に蝗害はどのように終息するのだろうか、一説に寄れば、あらゆる作物を食べつくしてしまったイナゴは、最後には食べるものがなくなりその大群を維持することができず一気に絶滅するという。（この大群が産み落とした卵が、植物が再生した何年後かに孵化して再び大群となって押し寄せるのだというが）

このイナゴの話、事実かどうかは確かめた訳ではないが、マルサスの人口論を読んだ時に、マルサスが言っていることはまさに「人間もイナゴの道を辿る」ということなのではないかなぁ〜と思ったものだ。

「人口は等比級数的に増えるが、食糧供給は等差級数的にしか増えない。したがって人類はこのまま増え続ければ、飢餓による大量絶滅が起きる」というのがマルサスの予言だが、今も極めて説得性のある理論に思える。

しかし、マルサスが人口論を書いてから既に200年、世界人口はマルサスの予想をはるかに超えるペースで増え続け、遂に70億を突破したにもかかわらず、「マルサスの悪魔」はまだ到来していないし、それどころか人口は今も、増加しつづけ今世紀中には100億を突破するともいわれる。

果たして、マルサスは間違っていたのだろうか。サイエンスライターである著者は、「マルサスの悪魔」の到来は、避けがたいものであり実はその足音は、今、益々高くなっているという。

確かに、今まで人類は「マルサスの悪魔」の到来を先延ばしにしてきた。それは、化学肥料、農薬、品種改良（遺伝子組み換え）といった手段を駆使した、農業の工業化であり、あるいは再生不能エネルギーの大量消費による生産、流通の効率化であり、あるいは暴走といってもよい飽くなき利益追求ループの加速化、グローバル経済の発達などによって一時的に破滅までの時間を先延ばししただけであり、食の終焉リスクは日に日に高まっているという。

枯渇しつつある水、石油エネルギー、後戻りできない程に工業化された単品作物への依存体質、飢餓に苦しむ人口と同数の肥満を抱えた人々という食を巡る極端な階層化等々、本書で取り上げられている現代の食糧問題の末期的様相には、鳥肌がたってくる。

(12年3月発行)