｢反原発｣の不都合な真実　　　　藤沢数希　　　　　　新潮社　

「反原発」こそが正義であり、「原発容認」は悪である、といった教条主義的な言論がはびこっている。

科学的事実に基づいて展開される論争ならばよいのだけれど、両論ともに、根拠薄弱（というか根拠なしの物もある）なデマを鵜呑みにしたような、単なる感情論、罵倒合戦に過ぎないというのだからそんな不毛な論争にはがっかりさせられる。（そこに、自分の選挙の為には、どちらに立った方が得か、といった損得がらみの政治家が絡むから話は最早支離滅裂だ）

そういういわゆるファッショ的な言い争いの行き着く果ては、本書を最初に出版する予定だった出版社が世の中の「反原発」風潮を慮ったからか「出版中止」を決めたといった、いってみれば言論の側の責任放棄、自己検閲風潮にまで及んでいるというのだから原発を巡る日本の昨今の風潮は、何をかいわんやという気がしないではない。

タイトルが刺激的であるほどには本書の内容は過激なものではない。口汚く「反原発」をののしるといった物ではまったくなく到って冷静かつ論理的な物である。

著者は3.11以来、全くの悪役になってしまった原発が、実はかなり安全なものであり、又、日本はエネルギー問題を考える場合、原発を積極的に利用すべきだし、その道しかないということを豊富なデータに基づいて冷静に説いている。

原発擁護などしようものなら袋叩きに会いそうだと昨今、マスコミや政治家がご難を怖れて触れないような（「反原発」にとっては不都合な）データが数多く引用されている。

反原発派も、是非本書であげられたデータなどに対して反証データを示して反論してほしい。データなしで感情的な反対論、あるいは中傷ばかりでは日本に、生産的なエネルギー論議は起きないことを知って欲しいものだ。

尚、著者の原発必要論には大いに頷ける部分が多いが、巷間いわれる「人為的CO2排出による地球温暖化」については今やデータの捏造などによってそのウソが暴かれているIPCCのデータを鵜呑みにして「今世紀末に世界の平均気温は6℃上がる」といった数字を挙げ、「だからCO2を増やさない原発は必要」という論理を組み立てている部分が、著者の本書での「原発を安全に運転することがもっとも合理的だ」という主張の論拠を弱いものにしているところが残念だとは思う。（温暖化が許容範囲のものに過ぎないということになれば、原発は必要ない、ということにもなるから）