牡蠣と紐育　　　 マーク･カーランスキー　　　　   扶桑社　　　　

アメリカ東海岸の牡蠣が有名だという話はよく聞いたことがあり、9.11以前のWTC最上階にあったレストランで生牡蠣を食べた記憶もあるが（ロンドンで食べた牡蠣にくらべてそんなに美味かったという記憶はないが）、16世紀ハドソンがニューヨークを始めて訪れた時、マンハッタン島周辺、いやニューヨーク、ニュージャージの湾は牡蠣で埋め尽くされるほどであったという。

本書は、ハドソンの探検以降、発展を続けるニューヨークの歴史を、かつては海を埋めつくし、貧しい人々にとって無尽蔵な食糧として食べられていた牡蠣が、人口の増加とともに汚染と乱獲によって壊滅していく歴史を通して描いたもので、その着眼点のユニークさもあって実に面白い一冊になっている。

牡蠣にかかわる薀蓄、ニューヨークに関する薀蓄が満載で、その両方にまつわる歴史、文化、あるいは世界との関わりといった事柄に興味がある人にとっては必読の一冊といえよう。

ニューヨークの愛称は、ビッグアップルだが、かつてはビッグオイスターがこの街の愛称だったという。

人口の増加、都市の発展にともなって、自然が汚染され、失われていくという必然は、今も世界各地で進んでいる。「自然を守りたいなら人類がいなくなることが一番だ！」という環境運動に対する強烈なアンチテーゼが心に浮かぶ。