冬の灯台が語るとき　　 　ヨハン・テオリン　　　　早川書房　

著者はスウェーデンミステリー界の新星として日本に紹介された作家で、本書は本邦第二弾に当たるのだとか。

連作ミステリーの常道として登場人物の一部は前作でも登場しているとのことだが、本作にも前作で登場した人物がいるとのこと。ただし、ポアロシリーズのような主人公としての登場の仕方ではなく前作との関連性はそれほど濃くはないのだとか。従って、前作を読んでおく必要は余りないようだ。

スウェーデンのミステリーにはあまり馴染みもないが、北欧の国の風土、そして人々の暮らし、社会をバックグラウンドに描かれたミステリーは他の国々のミステリーとはやはりその雰囲気が随分違っていて、ユニークでスリリングだ。

舞台はスウェーデンの南東部、バルト海に浮かぶエーランド島、この島の人里離れたウナギ岬の灯台を望む古い屋敷にストックホルムから越してきたヨアキムとカトリンの夫婦、それに彼等の二人の子どもを中心に物語は進む。

この屋敷には、冬、目の前の掌さえ見えないほどの極寒の冬ブリザードが吹き方向を見失って遭難死した者、嵐で船が難破し浜に打ち上げられる者などの「死者の記録」が壁に刻まれているが、ある時、妻のカトリンが事故で水死してしまう。妻の死に打ちひしがれたヨアキムだが、妻の思い出とともにこの死者の記録に惹かれていく。

一方、この屋敷周辺の村で起きた押し込み強盗事件を捜査していた新人婦人警官ティルダは、大叔父でこのエーランド島の老人施設に住むイェルロフから、このウナギ岬にまつわる様々な言い伝えを聞き取り中だが、イェルロフはむしろこのカトリン水死事故と押し込み強盗事件の方により関心がある様子で、時にはティルダに捜査の助言を与えたりもしている〜。

正直言って、前半部分はこのミステリーが、屋敷にまつわる幽霊話のようなオカルトストーリーになっていくのか、妻を亡くした夫とその幼い子供たちとの「父子愛情物語」になるのかさっぱり方向が見えないこともあって、なんだか随分と「かったるい」ようにも思ったが、この辺りのかったるい前フリが後半になると俄然効いてきて一気にサスペンス、ミステリーの様相を呈してくる。

陰鬱な鉛色の空と波立つ冬のバルト海、人里はなれた古びた屋敷、猛烈なブリザードといった背景の中で繰り広げられる息を呑む活劇―――。実に意外なカトリーヌの死因とその謎解き〜。

後半部分は息もつかせずに読ませる緊迫感漂うミステリーだ。

スウェーデンのミステリー中々捨てがたい。次作も是非読んでみたい。