エレファントム　　　　　ライアル・ワトソン　　　木楽舎

牛の目を見ていると物言わぬこの動物が、実はなにか悲しさに耐えているかのように感じることがある。

動物と人間、動物同士はお互いに実は言葉以外の方法でコミュニケーションしているのではないだろうか―――という疑問は古くから提起されることはあるが、未だに「科学的」に証明されてはいない。

それだけに「動物と人間は太古の時代からなにか超能力的な方法で意思を伝え合っている」とか「生命そのものが何か神秘的な力によって理解しあっている」などと主張をすればやはり「オカルト」だとか、「似非科学」というそしりを免れ得ないという面はある。

ライアル・ワトソンは動物行動学をはじめ生態学や心理学など10分野の博士号を持つ科学者であるが、本書で述べられている彼の「全ての生命に共通する意思」というテーマは正に従来我々が持つ「科学」の範疇を越え、かなり「オカルト」に走っているのではないかという批判は耐えない。

しかもワトソンの全ての著書で主張される「スーパーネイチャー説」は、世界的に有名にした彼の著書「百一匹目のサル」や「グリセリン結晶化」に事実として掲げられた項目が全くの捏造であったことが判明(ワトソン自身も捏造を認めたとも言われている）しているという前科が、本書の内容の多くの部分の「科学的信用性」を薄めてしまっているような気がしないではない。（どうも疑いの目で読んでしまう）

嘗ては（と言っても数千万年前）には数百種類もいた象という生き物がたった2種類だけになってしまった自然界に於ける淘汰と絶滅の哀歌に対する著者の目は動物行動学者であるというよりは寧ろ詩人としての著者の目で本書を中に感動的に描かれている。

特に最終章で描かれている、人間に追われ絶滅を迎えようとしている象の最後の一頭が、海岸で同じ祖先を持つシロナガスクジラと二頭にしか聞こえない低周波をつかって何かを語り合っているという余りにも感動的なシーンなどは、正直言って著者による創作ではないかと思ってしまうのは、本書全体を通じての著者の主張が、やっぱり必ずしも一般的に言われる「科学的」論拠に基づいていない部分が多いからだ。

ワトソンの「トンデモ科学」に対する憧憬（もし、それが事実だったらいいなぁ〜、といった思い入れ）、あるいは科学者というよりは詩人としての才能によって書かれたと思える本書は、「生命」というものの尊厳という意味からは共感できるところが多いけれど―――やはり科学という面から見たら「どうかなぁ〜」と思ってしまう。

もっとも、コペルニクスの地動説も最初は「トンデモ科学」だと思われていたことを考えれば、ワトソンの「スーパーネーチャー説」だっていつかは「科学的」だといわれる時代が来ないとはいえないが。（あの牛の目が本当に何を訴えようとしているのかを人類が知ることができた暁には―――）

(09年6月発行)