バーボン・ストリート　　　　沢木耕太郎　　　　新潮文庫　　

ノンフィクションライターとしての著者の才能に並び得る作家は精々吉村昭ぐらいしかいないのではないかと思っているが、著者がエッセーストとしても日本屈指の書き手であることを知らしめた一冊が本書だ。

初版が発行されてから既に30年が経過しているが手に取った本書は既に26刷というから超ロングセラーであり、このエッセーをはじめとする著者のエッセーがいかに優れているかを示していると思う。

そのことは、同じく優れたエッセーストであった山口瞳が、あとがきの中でこのエッセーをはじめて読んだ時、「ヤラレタ、完全にヤラレタと思った」と書いていることからも分かる。

沢木のエッセーの題材は、全て沢木自身の経験であり、感覚であって決して第三者のもの、あるいは第三者を介して得たものではない。例えば、交遊録的な文章があるが、それは他の多くのエッセーストの物のように「俺はこういう有名な連中とも付き合いがあるのだぞ」といってちょっと自慢めいた所とか、「あいつにはこういう所があるんだぞ」といった楽屋ネタめいたところを全く感じないのは、彼のエッセーが締め切りに迫られて書いたといった気配を全く感じさせない、「書きたいことを書いた」という自由さに溢れているからではないかと思う。

山口瞳どうように「ヤラレタ！」と思わせるエッセー集だ。未読の方には是非お勧めしたい一冊だ。