なぜヤギは、車好きなのか？　　　小林朋道　　　　朝日新聞出版

小学生の登下校の時に通る土手道には、いつもヤギが繋がれて草を食んでいた。ひたすら草を食べ続けるヤギにいたずら半分で紙を食べさせようとしたこともあったが−−−牛のように大きくないから小学生にとっても恐い存在ではなく、比較的おとなしいだけに子供がいたずらをするには適当な動物だったのかもしれない。

最近ヤギみっきりヤギを見かけることがなくなったが、確か、ヤギがいれば、堤防沿いの道の草刈りを定期的にする必要などなく、ヤギが綺麗に食べてくれる−−−という話を聞いたことがある。

今流行の「エコ」を考えれば、堤防に数頭のヤギをつないでおけば、除草剤もいらないし、定期的に大人数を出して除草作業をする費用もセーブできるだろうから、日本中でヤギを飼ったらどうかとすら思う。（ヤギのミルクというのも濃厚で美味いという話を聞いたことがあるし、ゴートチーズだって作れるのに−−−）

著者は鳥取環境大学で動物行動学を教えている。同大学が設立された年、著者は学生に向かって「キャンパスでヤギを飼ってみてはどうですか」と語ったところ、その日の内に「ヤギ部」が発足、著者は以来、同部の顧問を務めておられるとのこと。

本書は鳥取環境大学ヤギ部発足以来11年間の数々の思い出を語ったもので、ヤギというなんとも親しみのもてる動物の「個性」や、そんなヤギとかかわる著者自身や学生のユニークな視点を描いてなんともほのぼのとするエッセーになっている。

ヤギ部はヤギをペットとしてでも、家畜としてでもなく、野生の特色を残した生物として扱い、観察することをモットーにしているのは著者が動物行動学者であるということが理由のようだ。確かに、ヤギはペットとはちょっと違うし、家畜化された歴史もまだ7000年ほどだというから野生をかなり残しているということもあるようで「身近な野生動物」といえなくもない。

ヤギという動物は中々個性的でもあるようだ。ヤギ同士で、お互い触れ合うことを求める時もあれば、時には孤高を保とうとするなど、ヤギの行動は人間のそれとあるところでは通じ合っている。

ヤギの母同士が争っているとそれぞれの娘が自分の母に加勢する、という貴重な一瞬を捉えた写真なども含めて、おもしろいヤギの生態を示す写真もたくさん掲載されている。

ヤギ部創設以来の部員であった「ヤギ子」の死のいきさつなど、著者とそして学生たちの「ヤギ愛」がなんとも美しい。