鉄砲を捨てた日本人　　　　ノエル・ペリン　　　　中央公論社　　　

日本人でありながら外国人である著者に指摘されるまでまったく考えたことがなかった。

「種子島に到来して以来、あっという間に日本中に普及した鉄砲だが、江戸時代に入るとなぜ日本から忽然と消えてしまったのか」という本書のテーマのことである。

互いの武将が名乗りを上げることから始まる戦国時代の戦い方が、鉄砲伝来以来、いきなり問答無用でズドーンと打ち合うというなんだか「恰好よくない」戦いになってしまったことに、当初は随分と抵抗感を持つ武将もいたようだが、何せ、勝つことが目的の戦ならいきなりズドーンの方がよいには決まっている。

だからこそ、戦国末期には日本は世界有数の鉄砲量産国、鉄砲保持国となっていたのだがし、日本以外の国では一旦鉄砲が使われたら、その後はかつての槍や剣の時代に戻ることはなかったのに−−−。

戦国の世が治まり天下泰平の江戸時代に至ると、幕府による火器管理の徹底といった施策が行なわれたという理由は確かにあるものの、なぜ日本は100年以上前の「刀」の時代にもどってしまったのだろう。

そこには、日本人の平和時における軍縮思想がうかがいしれるし、長釘を両断するほどに切れ味鋭い刀を製作することを可能にした日本人の製鋼技術、作刀技術があったというのが著者の主張だ。(鉄砲よりは、切れ味するどい刀の方がよほど恰好が良い！という日本人の美意識も大分影響しているようにも思う）

著者は歴史学者ではないこともあって、本書のかかげる主張は、二次資料に基づいた推論といえる部分も多いようだが、なにしろ、著者の「なぜ、日本では鉄砲が捨てられてしまったのか」という着眼が新鮮でぐいぐいと読まされた。

「16世紀には世界一の鉄砲大国であった日本が鉄砲を捨てた」という事実と、「敗戦までは軍事国家であった日本が、今や戦争放棄国となっている」という事実はなにかつながりがあるようなないような〜。