弱い日本の強い円　　　　佐々木融　　　　　日本経済新聞社　　

「日本の株式が下がっているのになぜ円は高くなるのか」といった為替を巡る疑問を口にする人は多い。

巷間いわれる「為替の理論」なるものがことごとく現実の為替相場と矛盾するとか、どうしても理屈付けできない為替の動きが頻発するために、多くの人は「為替はバクチだ」とか「為替は分からないことだらけだ」と投げてしまってはいないだろうか。

著者は日銀からモルガンスタンレーに転籍したという為替専門家だが、基本的には為替の動きは全て理由付けができるというスタンスだ。

著者によれば、日本の長期安定的な物価（デフレとは違うという）が続く限り、あらゆる通貨に対して日本の円は強いはずだという。

日米の金利差も、ファンダメンタルズも、ヘッジファンドの動きも、それで為替の動きを説明しようとしても、実は市場の動きとはほとんど関係ないのだから、「説明がつかない」のは当たり前なのだそうだ。

確かに、こちらを押せば、あちらが引っ込むといった単純な動きで為替は動いているはずだという我々の為替に対する思い込みが、実はカオス状態で動いている相場の分析には全く役立たないということはあるのだろう。

為替に関する頭の整理の為には参考になる一冊だ。もっとも、著者とて為替ディーリングで100戦100勝という訳ではないだろうから、著者ですら為替を甘く見ているといわれても仕方がないかもしれないが。