老人性うつ　　　　　和田秀樹　　　　　　PHP研究所　

意外と知られていないが高齢者の5％はうつ病だという。

老齢とともに肉体、精神に衰えがでてくるのは人間が生物である以上避けがたい宿命であるが、そのような自分の衰えが、定年あるいは子供の自立、配偶者や親しい人との離別といったによる劇的な環境変化の時期とかさなることでうつ状態に陥る悪条件が重なるのが老人性うつ発生のメカニズムだ。

若々しい自分には自身が持てたのに衰えていく自分に自信を失い、また老いと病気への恐れに自己愛の喪失がかさなって−−−と確かに本書で指摘される老人性うつの条件は、高齢者ならだれでも陥り易い陥穽といってよいだろう。

もうひとつ本書で指摘されている重要な点は、老人性うつと認知症は全く別のものであるにもかかわらず非常に混同されやすいという点だ。

認知症はゆっくりと進行し不可逆的な症状である一方、老人性うつの進行は急ではあるものの様々な処置によって回復可能だ。

「歳だから」と無気力、落ち込みといったうつ症状を認知症と混同し放置すると、極端なケース自殺に至ることもあるという。（認知症で自殺という例は極めて少ない）

老人性うつにならない為にはどのような人生観を持つべきか−−といった点などのちょっと上から目線のアドバイスにはいささか納得できない部分もあり、又、うつになったら積極的に薬物療法をとるべきだ−−という見解も、いままで言われていた常識とは180度違うので戸惑うところも多いが（ホントかなぁ〜）、歳をとって一気に老け込んでしまった人を何人も見てきただけに、妙に納得できる点も多い。