マヤ文明　　　　　　青山和夫　　　　　　　岩波新書　　

人類史の中で忘れ去られている南米、メソアメリカ文化、中でも紀元前1000年から2000年間にわったって続いたマヤ文明は、他の四大文明の特徴といわれる「鉄器」「半乾燥地帯の大河流域の平地」「大規模な灌漑農業」「大型の家畜」「支配層に従属する工人集団」「統一王朝」を持たない文明である。それ故に、マヤ文明は「原始的な石器時代の文明である」といった誤解を受けがちだ。

しかし、マヤ文化研究の第一人者である著者は、これらのマヤの特徴は、そもそも高度な石器文化が発達していた為に鉄器を必要としていなかったこと、あるいは熱帯雨林、熱帯サバンナ、ステップといった多様な自然環境に恵まれていたために大規模灌漑の必要がなかったこといった理由によるもので、「原始的な文明」という評価はまったく不当であるという。

著者は、1986年に青年海外協力隊の考古学隊員として、ホンジュラスに派遣されたことがきっかけでマヤの石器研究の道に入ったが、今までに調査研究した石器は18万点にも及ぶという。

最初のホンジュラス調査の際に知り合った現地の女性と結婚、二女をもうけ、世界のマヤ文化研究者と交流し、日本では高校教科書にマヤ文明を正しく紹介するようにという運動にも携わるという、まさに「マヤ文明に惚れぬいた」人のようで、新書一冊に盛られたマヤ文明紹介の詳細と、その文明に対する愛情と情熱には打たれる。

学術的なだけではなく、本書のように研究者自身の生身の意気込みがつたわる新書は読んでいても実に楽しい。

トウモロコシ・マメ類・カボチャといったマヤ起源の三大作物が今や、世界の食料事情を支えていることをはじめ、マヤ文明は実は我々の日常に深く係わっていることを知って同じモンゴロイドの末裔同士として彼等により親近感を持った。

(12年4月発行)