ハキリアリ　　　　エドワード・O・ウィルソン　　　　飛鳥新社　　

木の葉や花などに我が身を似せて天敵の目からのがれるという昆虫の擬態を見ていると、何千万年といったとてつもない時間をかけて成し遂げられた自然選択による進化の凄さに言葉もなくなるが、社会生活昆虫といわれるハチやアリなどのコロニーの不思議さにも驚嘆させられる。

本書は社会性昆虫の中でも「農業をする」ところにまで進化したハキリアリのおどろくべき生態を扱ったもので、豊富な図版、詳細なハキリアリ行動様式の叙述など終始飽きることなく魅入られてしまう一冊だ。

ハチやアリなどの社会にはリーダーが存在するわけではない。女王といえどもそのコロニーの中で「生殖」という役割を担っている一匹に過ぎないのだが、彼等の集団はその集団全体があたかも一つの生命体（超個体）であるかのように実に見事な連携の下に機能している。

ハキリアリは直接消化することができない葉などの植物片を巣の中に飼っている菌に分解させてその分解物から栄養を摂っている。

その巨大な巣の中の大きい物は、2000室もの部屋を持ち、コロニー全体では数百万匹の個体数をもつものもある。

こんな巨大なコロニーがリーダーもないのにあたかも一つの生物であるかのように、菌を培養し、その培養菌を雑菌から守るために抗生物質を出すカビまで培養しているというのだから―――正に自然の驚異としかいいようがない。

人類が農業を始めたのは1万年前といわれるが、ハキリアリが農業をはじめたのは実に1000万年前ともいわれている。

農業をはじめたことによって人類文明は目覚しい発展を見せたがこの先100万年、いや10万年先にもその文明を維持しているかどうかには確信が持てないというのに、ハキリアリ文化（？）は1000万年も続いてきたし、おそらく人類が滅亡した後でも、この文化を守っていき続けていくだろう。

自然、そして生命の凄さにはあらためて驚嘆させられる。