首相政治の制度分析　　　　待鳥聡史　　　　　　　千倉書房　　

55年体制下における自民党内閣の人事権は派閥領袖が持っているといわれた。

行政府のそして一国の最高権力者であるはずの首相が自らの内閣の人事権をほとんどもたず派閥領袖による年功序列を主とする推薦によって大臣となった閣僚に取り囲まれて政治を行なう等ということがなぜ可能だったのか。

又、そんな内閣でありながら吉田、中曽根といった首相はなぜワンマン的といわれる、あるいは巧みに自分の思い通りの政権運営を行なえたのか。

小泉純一郎が、今までの自民党政権方式と180度ことなる人事を行い、しかもワンマン的な政権運営を行なうことができた理由は何か。

英国の議員内閣制度を模した形ではじまった日本の「首相政治」が英国のそれとも、又、大統領制度とも違った特異な形態になった歴史、経緯、そしてこのような独特の形態に至った理由などを政治学的に分析したのが本書だ。

戦後、60数年の日本政治を振り返る形で分析、さらについ最近の菅内閣の破綻振りに至るその首相政治の不全状態までを俯瞰するという本書は、一見ありそうでいて中々みられない現代政治論でありこの時代に生きた者としておおいに興味をそそられた。

いかなる政治を目指すのかという総合ビジョンを欠きながら、選挙制度だけをいじるといった小手先の改革が積み重ねられた結果、最近の民主党政権に見られるような「理念なき衆愚政治」に至った日本の政治風土を反省を込めて見直すべき時期ではないかとつくづく思う。

（12年6月発行）