宗教を生みだす本能　　　ニコラス・ウェイド　　　　NTT出版　　　　

人類は約5万年前に、アフリカの地を出発して世界各地に拡散していったといわれるが、それ以前から宗教を持っていたといわれる。

なぜ、他の霊長類と違って人類だけが宗教をもっているのか―――その「宗教を持つ」という特徴は、我々人類の繁栄にとって有益だったのだろうか、それとも無益もしくは有害だったのだろうか。本書における考察は一貫してこの点にある。

著者ウェイドは、宗教は人類の遺伝子に書き込まれたいわば本能である、という主張を全面に論を進めている。

最初に結論を出しておいて、全ての議論をその最初の結論に都合よく持ってきてしまうという科学者らしくない論法にはいささか問題もあると思うが、ウェイドの資料抽出の上手さ、博識といったことが背景にあるだけに、「なるほどそうかもしれない」と納得できる（丸め込まれてしまう）ところは大いにある。

ウェイドは、生物学、社会科学、民族史学といった観点から「今、繁栄している人類がことごとくと言ってよいほど何らかの宗教を持っているという事実から、逆算して考えれば、‘宗教が人類にとって無益あるいは有害であった訳はなく―――もし、そうだとしたら宗教を持った人類はとっくに滅びているはず―――宗教を持つ部族が生き残ったのは、宗教を持たない部族より生存にとって何等かの有利さを持っていたからだ’と主張する。

その具体的な例として、宗教（神に対する畏れ）が、集団内における利己的行動を防ぎ、「道徳」を維持させることによって他部族との争いに勝って子孫を残すチャンスを育んだ事などをあげている。

但し、こういった論理は、宝くじに当選した人にスポットをあてて「彼が当選したのは、日頃の行いがよかったからだ−−−」といっているのに似ていなくもなくなんとなく胡散臭さを感じないではないし、無宗教者だとか、ドーキンスやニーチェなどにたいする批判ににじむ「嫌悪感」的な言い方も、ウェイド自身が記者出身であり、専門的な社会科学者ではないということと絡まって素直に本書を受け取れない理由である。

それにしても本書が提起するまでもなく、「なぜ、人類は宗教あるいは神などというものをもっているのだろう」という疑問はわく。

しかも、その答えは恐らく将来的にも解明されないだろうと思うだけに、宗教に対する関心は尽きない。