英連邦　　　　　　小川浩之　　　　　　　中央公論新社　

長く、英国の植民地そして租借地であった香港が中国に返還されたのは1997年だったが、あの時、共産中国の支配地住民となることを嫌った多くの香港に住む中国人たちが、カナダ、オーストラリアなどの英連邦諸国に移民したことは記憶に新しい。

英連邦の各国は、長く英国統治地であった香港の住民を、いわば自分達の兄弟、家族のように受け入れたのである。

この一事に、「英連邦」という日本人にとっては余り馴染みのない連合体の性質がよく表れているのではないだろうか。

旧英国植民地を核にした共同体である英連邦は、本書によればそのそもそもの生成の歴史には支配・被支配、といった軋轢もあったが、今や多様な国々を含む国家間の「自由な連合」、言ってみれば一族会のようなものであるという。

英連邦は、当初は「イギリス王室への共通の忠誠」によって結び付けられた英国を中心とする連合であったが、イギリス君主をその「象徴」とするものの、かつて英国植民地でもなかった国、先進国と途上国、大国と小国など様々な国々（現在、加盟国は54カ国もあるという）のゆるやかな連合体、親睦団体的なものになっているという。

香港が返還された時、香港当局は英国に対して「感謝の意」を表した。韓国、台湾をはじめ日本が一時支配下においた国、地域から今も非難を受け続けているのに比べて150年にも亘る植民地支配の後で、「感謝」される英国との違いは一体何なのだろうか。

本書で著者はこの約150年に亘る英国の植民地経営の歴史を英連邦の歴史という視点から振り返っており、今日尚、英国が国際政治において主導的役割を保持している秘密に迫っている。