イラン人は面白すぎる！　　　エマミ・シュン・サラミ　　　　　光文社新書　

イラン人とは−−−などとステレオタイプでいうのは失礼かもしれないが、日本人の持つイラン人のイメージといえば、少し前なら上野公園でニセテレカを売っているやたらとヒゲの濃い人たち−−−であったし、今ならば核開発疑惑にまみれたテロリスト国家の狂信的イスラム教徒たち−−−などということになってしまうかもしれない。

エジプトに住んでいたこともあって中東、アラブの人たちやスンニ派イスラムについては多少は知っているつもりの自分でさえも、アラブ人たちとは古代からそりがあわないペルシャ人、そして同じイスラム教徒であるはずなのに、アラブ主流のスンニ派に対して常に敵愾心をあらわにするシーア派を信奉するイラン人は−−−、やはりどうにも分かり難い人たちということになってしまうのだが。

吉本のお笑い芸人である著者は、イラン生まれで、幼い時に家族とともに日本に来たが、来日前の幼き日々のイランでの生活体験もあり、日本人に「イラン人とは」を語れるまさに適任の立場にある。

彼の語る真実の「イラン人」像は、我々日本人がもつイラン人像とまったくことなったものだ。

イスラム過激派は、日本におけるオーム真理教徒と同じ位のごく少数派であり、大半のイラン人は、むしろ日本人からみたら「おもしろい陽気な奴たち」だという。

本書の中でも「イラン人のイスラム教徒としての生活」に関する部分は実におもしろい。

厳しい戒律に縛られたガリガリのイスラム教徒であるはずの彼等だが、なにかと理屈をつけて礼拝や断食といったイスラム戒律をごまかそうとするし、アラーの名の元に、遅刻、約束破り等々してもシレッとしたりもするという。

確かにエジプト時代、水を飲んでもいけない、という断食期間の昼、皆に敬虔なイスラムだと思われているエジプト人でもやたらとトイレ（洗面所）に行き、熱心に顔を洗い、うがいをしていたのを見て、「あれは、顔を洗っているフリをして時々、水を飲んでいるなぁ〜」と思ったものだが、本書によれば、イランのシーア派もその点はどうも同じのようだ。（病人は断食をしなくてよいことになっているというので、断食期間には病気を届け出る人がやたらと増える−−−ということもあるらしい）

なぜイスラムには、「豚肉を食べてはいけない」という戒律があるのかは合理的には説明できないが、何しろ「豚肉を食べたら天国にいけない」と子供の頃から刷り込まれているイスラムにとって日本の食事は大変だという。

但し、敬虔なイスラム教徒であれば誰も豚肉を食べたことがないから、間違えて食べてしまう場合もあるだろうが、それが｢豚肉だった｣とはいわれなければ分からないというマンガのような矛盾もあるのだとか。

トンカツの美味さに目覚めた著者(日本の小学校の先生に御馳走してもらったトンカツを豚肉と知らずに食べてしまい、その余りの美味さに驚愕したといいう）が、父親にトンカツを勧め、それを食べた父に「こんなに美味い肉は食べたことがない！　一体、何の肉だ？」と問われ、やはり真実を告げることができず「ムササビの肉」と言ったところ、父はその後、イランの親戚に「いかにムササビのから揚げが美味いか」を熱っぽく語るようになったという―――まあ、こんな愉快（当人たちにとっては愉快ではないかもしれないエピソードだが）なイラン人の生態（？）を知れば、ニセテレカ、核疑惑、自爆テロ等々で随分悪くなった我々のイラン人に対するイメージも多少は回復するのではないだろうか。