空き家急増の真実　　　　米山秀隆　　　　日本経済新聞　　　　

都心からさほど離れていないタカさんの住まいは、今から30数年前に建った当時のいわゆる新興住宅地にある。

当時、この住宅地に家を建てた世代はほとんどがタカさんと同世代か、それより上の世代であったが、今やその住民たちも老齢に達し、子供たちは親元を離れてしまったこともあり、住宅地全体は老人の町と化しつつある。

住民が高齢者ばかりになるのはまだしも、中には夫婦の片方、又は両方が亡くなり、残った高齢者が施設に入るなどしたために空き家となってしまったという家もちらほら見かけるようになってきた。

人が住まなくなった住宅の劣化は急激だ。庭には草がぼうぼうと繁り、外壁の塗料は剥げてきて−−−といった具合だ。この空き家増加の実態は、恐らく今年より来年、来年より再来年の方がより悪くなっていくのではないかとも思われる。

厚労省の推計によれば2060年の日本の人口は8600万人になるという。これはとりも直さず、日本中の至るところで急激な空き家増加を意味している。

今現在、日本全国には800万軒の空き家があるが、その内、別荘などの空き家をのぞいた「人が住まなくなった空き家」は270万軒にも上るというが、50年後の日本でこの数がどこまで増えるか−−−一瞬戦慄を覚える未来図だ。

本書は、そんな日本の空き家事情の過去、現在、未来を主に統計数字を引用することによって展開し、更には、この問題に対する処方箋を加えている。

「産めよ増やせよ」から人口抑制の為の「家族計画」へ、そして今度は掌を返したような少子化防御策―――といった具合にころころ変わった人口政策同様、住宅政策も、一時期の無機質な公害団地奨励、持ち家制度奨励から、今度は空き家増加による治安の悪化にそなえるべく、空き家の撤去、都市住宅圏の縮小へと180度の転換を迫られている。

今は亡き両親が暮らしていた家がもうかれこれ10年、半空き家になっているだけではなく、我が夫婦が住むこの家もいつかは空き家になる可能性が高い−−−などと考えると、空き家問題は全く他人事ではないという事実に愕然とさせられる。