枕草子の謎　　　　　藤本泉　　　　　　　　徳間書店

世界初の女性による随筆集ともいわれる枕草子だが、今から千年も前、決して女性の地位が高いとはいえなかった貴族社会においてあれほど奔放かつ大胆に自らの思いの丈をさしたる恥じらいもなく書き連ねることができた清少納言という女性は、たしかに極めて異質な存在とも見える。

紫式部が清少納言のことを「紫式部日記」の中で‘高慢ちきなどうも大変な女だ！’と悪口を言っているように、当時の宮中の女性ならありそうな謙遜だとか、卑下といった気配が全くないというのもどうも変だ−−−枕草子は清少納言が書いたものではないのではないだろうか−−−という疑問から発した著者の探求は、次々と枕草子の「ここは変だよ！」という点を挙げ、それでは一体、誰が本当の作者なのか−−−という謎解きへと進む。

源義経は東北を脱出、モンゴルに渡ってジンギスカンになった――とか、聖徳太子はいなかった！といったものも含めてこの種の歴史異説は数限りなくあり、中にはあまりに突拍子もない為に嘲笑されて終わったものもあれば、その「まことしやかさ」故にかなりの支持者を得ているものまであるが、本書もそういった異説の一つだ。

「まことしやかさ」はまあ50点はあるかなぁ〜という程度、数々の根拠を上げて枕草子の真の作者は「xx法師！」という結論に至る推理は、90％まで眉唾にも思えるが−−−。

ユニークな王朝女流文化を紫式部とともに今も世界文学史に燦然と輝くものにまで押し上げた清少納言という女性に対してあらためて興味が湧いてくる内容であり、ことの真偽は兎も角、面白い一冊といえる。