うなぎ大回遊の謎　　　　塚本勝巳　　　　　　　PHP　　　

うなぎがどこで生まれてくるのかは古代ギリシャの時代から大いなる謎といわれてきた。

日本でも古くは、うなぎは泥の中から自然発生するという説や、山芋がウナギに変わるという説が信じられていたぐらいだ。

近年になってから日本ではニホンウナギがどこで産卵しているかの研究が行なわれてきた。2005年には日本列島から数千キロも離れた太平洋のど真ん中、西マリアナ海嶺で生まれてまもないウナギの仔魚を採取という快挙をなし、09年にはついにうなぎの卵、そして親うなぎの採取に成功した。

日本から数千キロの旅をしたうなぎが太平洋の特定のポイントで産卵し、その卵は孵化しレプトセファルスという名の仔魚に成長しながら海流に乗って再び日本まで数千キロの旅をするという「うなぎ大回遊」のルートが突き止められたのだ。

本書は、そのうなぎ大回遊の探究に早くから携わってきた著者が、この間の経緯、そしてうなぎの数多くの謎について述べた実に面白いうなぎ尽くしの冒険ドキュメントともいえる一冊だ。

折からうなぎの漁獲量が激減しているという。その原因としては乱獲、あるいは気候変動による海流の変化といったものが言われているが、日本人が長く親しんできた貴重な資源であるうなぎ食の文化を子孫たちに伝えていくためにも、著者たちによるこういったうなぎの生態研究は絶対に必要だ。

蓮舫さん流の「うなぎの研究なんてなんの役にたつのですか！」などという風潮がいやにもてはやされる昨今、著者たちうなぎ研究家の「尽きせぬ好奇心と、恐れを知らぬ探究心」は実にたのもしい。

嘗ては海で生活史をくりかえしていたうなぎが数千万年の進化の果てにたどり着いたこの「大回遊」という生活史を、我々の世代で途絶えさせるようなことがあっては、人類史上に残る大汚点だという自覚を我々はもつべきだろう。

(12年6月発行)