貧乏人の経済学　　　　A・バナジー/E・デュフロ　　　　みすず書房　

「月々xx円のあなたの寄付が、アフリカの飢えた子供たちを救います」といった類の募金広告をよく目にする。

ワクチンが足りないために、「xx百万人の子供たちが死んでいる」「xx億人の人達が清潔な水を飲めないでいる」といった広告を見るたびに微力ながら自分も世界の貧困救済の為に月々僅かな額といえども寄付をしなければという思いにかられる。（そういった募金団体の多くは、職員達の豪華な暮らしや、ファーストクラスでの旅行に集めた募金の大半を使っていることなどがよく暴露されて問題になるが―――）

一方、「貧困救済の為の大規模な経済援助は、貧困地域の自立を却って妨げている！」という偉い経済学者の説もある。

貧困の解消の為に一体、我々はどうしたらよいのか、と思うけれど経済学者たちの間でも貧困問題の解決の手法についての論議は定まっていないと著者等はいう。

それは経済学理論が、実際の貧乏な人達の実態を把握しきれていないことが原因であり、実地に貧困の現場で個々に「貧乏な人々」の実態をみることによって、一から対策を考えていくしかないという。

二人の著者による丹念な現場取材に基づく実験経済学的な解析、そしてそれに基づく貧困問題対策の提言は、今まで｢あなたの月々xx円の寄付が―――｣といった類の、国連本部辺りのエリートが考え出したCMに心揺さぶられていただけの（結局は、自分の気休めに終わってしまっているかもしれない）我々に、「真の貧困問題とは」を考えさせてくれるこの上ないガイドとなっている。

貧困の問題は単純ではない。いや、貧乏人の数だけ問題や課題があると言ってよいだろう。ところが、我々はこの問題を｢貧乏人とは―――｣といった一括りで捉えてしまいがちだ。

そのよい例は、「貧困からの脱出の為には教育が必要だ、だから学校を建てること、子供たちを学校に行かせることこそ貧困問題解決の第一歩だ」というステレオタイプな考え方だ。

確かに、教育を与えることによって貧困を脱出する手段を得ることはできるかもしれない。しかし、いくら学校を作っても、貧困が原因という訳ではなく学校が面白くないからと言って学校を辞めてしまうこどもたちが実に多いという事実は、フィールドワークをしていない国際機関やその国の中央政府、あるいは経済学者には分かっていない。学校という枠だけ作っても、教育の成果が目に見えず、やりがいを失って欠席してばかりいる教師が多いとか、「優秀な子」を育てることに主眼を置いた教室での授業に、ついていけず学校嫌いになっていく子供が実に多いといった実態は忘れられていると著者等はいう。

即ち、「貧困救済のために教育」というならば、学校制度、教師のやる気、カリキュラムの内容や、習熟度別の細やかな教育等々の多くの問題を解決する必要がある−−−本書は主張する。

勿論善意からとはいいながら一向に成果の上がらぬ貧困救済策に埋没している国際機関やボランティア団体にぜひとも、貧困問題に関する極めて斬新かつ真摯な研究である本書を読んで欲しいと思う。