機械より人間らしくなれるか？ B・クリスチャン 草思社
「法務大臣は楽だ、‘個別の事案についてはお答えを差し控えます’と、後は‘法と証拠に基づいて適切にやっております’、この二つを言っておけばいいんですから」と発言した為に「国会軽視だ」と法務大臣をクビになった人がいたが、閣僚の答弁の大半は、実はこの法務大臣発言と同じようなものだ。「それ以上でも、それ以下でもない」という野田首相の「近いうち解散」についての発言も、その一つだろうか。
こういった政治家の発言に、人々が「無責任だ！」とか、「誠意がない！」といかるのは、なぜだろうか。木で鼻をくくったようなというかまさに‘血の通わない機械のように冷たい
’ この種の発言には、人間味が感じられない、という理由からかもしれない。しかし、一方、例えばクレジットカードの申し込みの電話に、機械ではなく生身のオペレーターが出てきた場合はどうだろうか。「お名前は？」「お住まいは？」「年収は？」等々のプライベートな質問をされるなら、その質問事項がいかに機械的なものであったとしても、‘相手が生身の人間である’と考えるだけで嫌な気分になり、‘機械応答の方がよほどよい’と感じるのではないだろうか。
AI（人工知能）は、「より人間に近いものに」なることを目標に開発されてきて、すでにチェスの名人に勝ったディープブルーのようなものも開発され、「より人間的な」というテストであるチューリングテスト（「審判員の30％が機械なのか、人間なのかを判定できない」という人間に近い機械であるかどうかを判定するテスト）の合格ラインに後一歩のところに迫るAIも出てきている。間もなく「人間と区別がつかないほど人間に近い機械」が出現するかもしれない。
本書は、そういったAIの発展の歴史を機軸にして、「人間的である」ということは一体どういう意味であるのか？を様々なアプローチによって展開していくという本書の着眼点は実に面白くユニークだ。
特に面白いのはこのチューリングテストの「人間らしい機械」を逆手にとり、「より機械的な人間」とは、あるいは「人間らしい人間とは」という人間性の根底にユーモアを交えて迫っている点だ。
本書を読み終わって、今日一日、自分自身が他人との会話において一体どれだけ「人間らしかっただろうか」と考えてみたが、ひょっとしたら機械にも負けるようなところもあったのではないだろうかという気もしたが−−−。
(12年6月発行)