風力発電の不都合な真実　　　　武田恵世　　　　アットワークス　　

原子力発電は勿論、二酸化炭素排出源だといわれる化石燃料型の発電が「悪」といわれる一方、自然エネルギーと名がつけば全て「良い子のエネルギー」だといわれる昨今だが、中でも循環型エネルギーとしてちやほや褒めそやされているのが、ソーラーと風力発電だ。

「たかが電気」と発言した音楽家がいたようにエネルギーの効率などということは一切考えない「市民運動家」も多い中では「良いエネルギー」なら、なんでもかんでも開発すればよいということになり、実はその自然エネルギー開発が、善良なる地域住民を苦しめ、悪質な業者の私腹を肥やしていることなどは、世間の目から巧妙に隠されている。

自然エネルギーは、原子力などを「悪」とする市民運動家たちにとってはまさに「正義の味方」であるかのような扱いだが、その実態は一体どうなっているのだろうか。我々は自然エネルギーにとっての「不都合な真実」からも決して目を背けてはならないのではないだろうか。

今の日本の「空気」は、原子力なら何でも悪い、危険だ、という一方、ソーラーや風力に対する批判は、「経済界の陰謀」だの「石油業界、原子力業界関係者のウソ」だという決め付けによって日の目をみることはない。

エネルギーについての根本政策など持たないポピュリスト政治家たちは、こういう風潮に便乗、唐突な「原発ゼロ」宣言、「自然エネルギーと名がつけばなんでも補助金ばら撒き」政策を(選挙対策として）発令、ずるがしこいソフトバンクのおっさんやら、補助金目当ての乱開発業者が、こういった金に群がるというなんとも情け無い状況になっている。

本書は、自然エネルギーの中でも風力発電に対象を限定して、その「おかしな」実態を告発している。

著者自身はかつては風力発電を支持していたらしいが、野鳥の保護などの活動に従事する中で、風力発電開発の問題点に次々と直面し、しかも、そういった問題が、行政の無知と、開発業者たちの詐術によって、無視、放置される中で既に取り返しのつかないところまで進められていると告発している。

著者が本書であげている風力発電の問題は、多数あるが、中でも、いい加減な風況調査に基づいて建設されたが実際はほとんど動いていない風車の問題、故障続きでしかも修理費が嵩むために採算に合わない風車の乱立（でも、全て補助金でカバーされるので業者は全く困らない―――ツケは結局納税者に回される）、電圧が不安定であるために、通常電力として使えない問題、バードストライク、低周波、騒音等々、本書を読むかぎりその問題点はあまりに膨大だ。

風力発電は「今直ぐにでも開発をストップすべきもの」ということになるが−−−。

本書の読書評の中には「本書で取り上げられた問題は全て解決可能な問題」などといってあいかわらず狂信的に「自然エネルギーは絶対善人説」を唱えるものも多く見受けられることを思うと、壮大なる無駄（無駄ならまだしも害になるだけ）である風力発電建設が止まるということはやはりあり得ないのではないだろうか。無力感に襲われるが−−−。