キリスト教封印の世界史　　　　ヘレン・エラーブ　　徳間書店　　

ムハンマドを題材にしたマンガや小説、映画が出る度にイスラム原理主義を掲げる人々によるテロやら暴動が起きる。イスラム教ならではの後進性故にこのようなこと起きるのだとよく言われるが、なあに、世界中のどんな宗教でもこのようなことは起こり得ることだということを我々は今でも日々体験している。(ブッシュ大統領は、「進化論はまだ証明された理論ではない」ということをアメリカの公立学校で教えるようにという法案にサインする寸前だった)

宗教が人類にとって利益となった点も多いというのは事実だろうが、その何倍いや何百倍もの害毒を及ぼしてきたのではないかという疑念には、かなり正当性があるようにも思える。

人類史、いやこの数千年間の歴史に遡って考えてみると、宗教の狂信によって及ぼされた害悪の大きさは、間違いなくイスラムよりもキリスト教の方がおおく、極論すれば宗教の及ぼした害悪といえばキリスト教の専売特許とさえいえるようにも思う。

本書は、キリスト教誕生以後、キリストの教えの正統な継承者を名乗る使徒達、ローマ教会や聖職者たちが、いかにこの宗教によって世界を混乱に陥れてきたかを詳細に追った物で、いまだに我こそは正統なキリストの伝教者であると名乗る教会組織にとっては、覆い隠しておきたい暗黒の歴史が語られている。

今が中世だったら、本書のようなキリスト教の恥部を描いた本の著者が果たして無事でいられるかどうかさえ危ぶまれるほど大胆なキリスト教批判である。

本書であげられている事柄、事件等々は、誹謗中傷の類では全くない。全ての事実が、しっかりとした資料、文献に裏づけされているだけに、キリスト教側としては、反論のしようもないだけに、ひたすら本書を無視するしかないのではなかろうか。

キリスト教やイスラムのような一神教（キリスト教の場合、かならずしもそうはいいきれないが）が、なぜこのような危険な思想になりがちなのかというそもそも論も非常に納得のいく形で解説されている。

「神の脅威」によって人々に恐怖を植え付けることで、自分達の権力と富を確保してきた教会などの宗教利権の数々の悪行が述べられており、又、プロテスタントの名の下に行なわれた蛮行についてもこれでもかこれでもかというほど言及されている。「良くぞここまで書いた」と大喝采を送りたくなる。

キリスト教の2000年に亘るこういった暗黒史は決して過去の話ではなく、今も、世界を支配していることを思うとつくづく宗教の恐ろしさに身震いさせられる。