宇宙はなぜこんなにうまくできているのか　　　村山斉　　　集英社

村山斉氏といえば、最近売り出し中の宇宙物理学者で、その著書もここのところ立て続けにベストセラーとなっている。（参照：「宇宙はなんでできているのか」　「宇宙は本当にひとつなのか」）

テレビの科学番組などの出演も多い理由は、やはり著作がベストセラーになる理由と同じ「難しいことを分かり易く」解説する能力からこそだと思う。(本当に理解していなければ、何事も人に分からせることは不可能だ−−概して「分かり難い」といわれる人というのは、本人が自分がしゃべっている事を本当は何も分かっていないからだ)

著者の専門である宇宙物理学についての新たな一冊ということで、他の著書とのかなりの重複があるのでないかとも思ったが、そんなことはなく、各書のメインのテーマは異なっているから本書も飽きずに読める。

この宇宙は今から135億年前ビッグバンによって生まれたといわれる。この一瞬ともいえない瞬間に現在のこの広大な宇宙を支配する全ての仕組みが確定した。

この現在の宇宙を宇宙たらしめている全ての変数（例えば、ダークマターの量、重力や核力などの強さ、物理量）が、この数字だからこそ我々の宇宙は存在し、その宇宙が存在しているからこそ、創世から135億年をかけて我々人類が生まれ、遂にはこの宇宙の成り立ちを解明しようとするところまできている。

我々が存在するという「結果」からみればなんの不思議もないことだが、ビッグバンという「原因」から考えたら、宇宙変数にせよ、我々の存在にせよ、「偶然」では片付けられない奇蹟以上の何かが働いているのではないか−−−という疑問も湧いてくる。科学の謎が解明されるにつれてこの不思議さに対する我々の疑念は、更に深まっていかざるを得ない。

「人間原理」というオカルト的な解釈を含めて、この宇宙がこうしてあるのは、そこになにか絶対的な存在−−−人によってはそれを神というだろう―――と唱える者がいることに科学者は居心地の悪さを感じながらそれに対抗する理論を中々持ち得ないでいる。

本書のメインテーマは今、科学者たちが考えている「神」に対抗する理論、すなわち「多世界解釈」である。

量子力学が現在、たどり着いた理論としての「超ひも理論」からはじまり、宇宙は我々の宇宙以外にも10の500乗個もの異なった宇宙（マルチバース）があるから、我々の宇宙が偶々、我々人類にとって快適な宇宙であることに何の不思議もないのだ−−−という仮説だが−−−。

理論的には反駁できないが、「神の存在」を絶対に認めたくないタカさんにとっては、精緻な物理理論の更にその先にあるといわれる「マルチバース」理論の肩を持ちたい気にもなるが、絶対に実証されることのないと思われる「マルチバース」とか「多次元世界」といった理論を持ち出されると、この理論とやらは、実証不可能な「神の存在」主張と、どこが違うのか−−−とも思えなくない。

益々、宇宙論が面白く思えてきた。