女ことばと日本語　　　　中村桃子　　　　　岩波書店　　

岩波新書の「女ことば」に関する本ならば、言語学的な意味合いから女ことばを掘り下げたものだろうと期待して手にとった一冊だったが−−−。

著者は言語学専門であるらしく「女ことば」が平安時代の「女房詞」に起源があるといわれてきたことなどをはじめ、寧ろ明治以降の国家体制下において形成が進んだことなどの、若干の薀蓄は述べられているものの本書の趣旨はそういった言語学的なところにはない。

全体的には土井たか子さん流の（というか田島洋子さん流のというか）、ちょっとエキセントリックな女権主義者（女権主義者がすべてエキセントリックと言っている訳ではないが）による、イデオロギーアジテーションを読まされたような気がしないではない。

著者によれば、女ことばは、古くは｢女は黙っとれ！｣式の男尊女卑思想に基づき女権抑圧の為に作り上げられたものであり、そして明治以降は、天皇制下における国家総動員の為に女性を統制する手段として強制的に作られたものだ！という。

更には「女ことば」こそが、今も、女権抑圧の象徴だ！という、なんだか「言語学者」というよりは体制批判アジテーターの主張のような一冊である。

著者の言っていることが気に入らないという訳ではない。女ことばの成立過程にはそういう要素もあったのではないかとも思うが、ことばというものが、長い歴史の中で、人々の必要によって形成され使われてきたという事実を忘れて、その歴史の全てを否定するかのような批判は、ある意味では「日本人は米ばかり食べて来てけしからん」と言っているのと同じように聞こえてなんともナンセンスな論議と思えてしまうのだ。

「オイ、オマエ、早くしろよ！」といった乱暴なことば遣いは「女性らしくない」と思うが、そんなことを言おうものなら著者に｢封建主義者の無理解者！｣とののしられるかもしれない―――。

美しい女ことばを美しいと感じて何が悪い―――と反論しても、著者には通じそうもないが。