遺伝子の不都合な真実　　　　　安藤寿康　　　　ちくま新書　　

「天才とは1％のひらめきと99％の努力である」というエジソンのことばを信じて勉強机に向かう子供に両親の学業成績が悪かったことを理由に「かえるの子はかえるだよ｣などと言ったら―――世の中から猛烈な非難を受けるだろう。

逆に、遺伝と能力に相関関係はなく、環境要因が全てを決定する！などといっても、やっぱりブス男とブス女の間にイケメンは生まれないということを知っている我々は、これも信じないだろう。

遺伝と環境の能力などに与える影響度の測定は実に難しい問題である。

しかし、冷静に研究を進めてきた著者は、環境ではどうにもならないやはり努力だけではどうにもならない能力差というのはあるのではないかと、学習塾などという商売は成り立たなくなってしまうような｢不都合な真実｣に言及する。

この種の遺伝要因の話をすれば、ナチスの優性思想のトラウマもあって反発があり、その反動ともいえる「人の形質に遺伝は関係ない、環境要因こそが大切だ｣という説を「信じたい」と考える人が多いのも事実だ。

行動遺伝学者である著者は、寅さんのセリフでいうところの「それを言っちゃあおしめぇよ〜」という「不都合な真実」にあえて言及する。

両親から同一の遺伝子を受け継いだ一卵性双生児は、お互いに異なる遺伝子を持つ二卵性双生児に比べてはるかに相互の遺伝子の同一性を示すという、当たり前にもきこえると実証結果でさえ無視しようとする「環境絶対主義者」に対する著者の反論は中々論理的である。

但し、あとがきで著者自身が述べているように、本書における著者の主張の一部は、未だ｢見切り発車｣の部分が見受けられる。

長くタブーとされてきた遺伝子の影響についての研究だけに、パンドラの箱を開けたかの感はあるものの、ここでくじけることなく、更なる挑戦を大いに期待したい。